5月のローマへ―「ヘリオガバロ」再演のために

またローマにやって来た。”来た”というより、”戻った”と言った方が、私にはぴったりくる。昨年の5月フランスのアンジェの帰りにローマとナポリに寄り、夏の盛り8月中旬から秋が初め10月までローマとナポリに滞在し、引き続いて今回の3週間ローマ滞在だ。日本国内でもこれほど頻繁に同じ所を訪ねることはない。もうローマには何度来ただろうか。

毎回、公演とワークショップのタイトなスケジュールなので、観光する時間はほとんどない。日本人観光客なら必ず観に行くであろうヴァチカン市内にある「システィーナ礼拝堂」のミケランジェロの天井画も、コロッセオの中も、リルケの好んだボルケーゼ宮殿の噴水もゆっくり観賞に行く機会は未だにない。世界の観光地ローマより先に、舞踏の研究者でありプロデューサーでもある、ローマのティブリティナ通りに住むジャーナリストのマリア・ピアと出会ったことが、私にとってこの都会との強い結びつきになっていることは確かだ。

今回は,「ヘリオガバロ」再演とオイリュトミ―公演の稽古を、はじめの1週間はマリア・ピアの家の近くにある演劇学校の稽古場で、公演までの1週間は、フリオカミロ劇場での稽古というスケジュール。前半はマリア・ピアの部屋、後半はフリオカミロ劇場の二階のルーマニア人マリオン経営のB&Bが宿になる。私にとっては双方とも、既に”勝手知ったる他人の家”の感がある。マリア・ピアの部屋は言うまでもなく、B&Bもお馴染みで、マリオンの愛犬、シャイな雌犬カミーラも待っていてくれる。近くのレストラン「スパッカ・ナポリ」の粋なウエイターとも顔なじみ。

ローマ市内には,未だ至る所で遺跡の発掘が行われている。現在発掘されているのはほんの僅かで、まだまだ地下には過去の遺産が眠っているそうだ。古代ローマの日常空間が、そのまま時間を超えて今日のローマの人々の日常空間となっている。古代ローマの無数の兵士たちが、凱旋行進で何度も歩いた石畳の上を、今私も歩ている。

今日ローマにある素晴らしい古代の建造物や彫像の数々は、当初は芸術を意図して創られたのではなく,古代ローマ人たちの命の生産物だった。人間の内に秘めたの偉大な生命のエネルギーから、美が抽出され、形に留まり続けたからこそ、それらは数千年経た今日の私たちを圧倒し魅了する。

ローマの5月。街路樹は明るい陽光を受けてキラキラ輝き、爽やかな微風が新芽をくすぐる。

稽古場の黒板に”The answer is blowing in wind”と誰かが書いていた。「ボブ・ディランよ」とマリア・ピアは呟いた。

私のカラダにマリア・ピアから、ピントスから、フラヴィオから,サマンタから・・・のローマの風が、古代ローマの香りを纏って広がっていく。

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