ユルスナールとトーマス・マン

トーマス・マンの「魔の山」の主人公ハンス・カストルプと、もう随分長く付き合っている。20代で読み始め、即、挫折。30代、40代、50代、60代と代を重ねる度に、読み返しと休止の繰り返し………。77歳になろうとする今も、ハンス・カストルプくんが気になる。どうしてかしら?
今年の春に須賀敦子さんに導かれて、マルグリット・ユルスナールの著作を読むうちに、私にぴったりの服に出会ったような嬉しさで、すっかりユルスナールに夢中になった。マンが頭から消えている時、古本で見つけたユルスナールコレクションの「目を見開いて」の中で、著者がトーマス・マンについて「マンの人柄のなかには私にとって不快な要素も無数にあります。私がこの作家を発見したのはかなり遅かったのですが、非常に違う見方から出発していながら、私たちの仕事のやり方というか方法がかなり近いとわかったときには、もちろん驚嘆しました」と語っているのを読んだ。他の箇所でも度々マンの名前が登場する。半世紀前からトーマス・マンを引っ張ってきた私が、後期高齢者になった今、ユルスナールに出会とは‼︎

ユルスナールは、圧倒的なイマジネーションの渦を、壊れかけた私のからだに流し込む。
トーマス・マンは、山の天気のように気まぐれな私の頭腦に、時折、明澄な風景を私に示してくれる。
共に19世紀末から20世紀にかけて生きた二人の先達が、今を生きる私を彼方の未来から見ていてくれる………。

「私たちはみんな似た者同士ですし、同じ終焉に向かって歩いているのです」
                        ーマルグリット・ユルスナールー
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自分の中に見えない他者が住んでいた。

ミツタケが、先日車で連れていってくれた秩父の町の食堂で、私がオムレツを食べているところを撮った(盗撮⁉︎)動画を、LINEで送ってきた。うひゃ〜これ誰? 黄色い小型ラグビーボール形のオムレツの上に、顔を突っ込まんばかりに近づけて、両手をちょこんとお皿の両脇に置き、ねじ曲がった指でスプーンを器用に動かし、何やらおしゃべりをしながら、子どものようにオムレツご飯を美味しそうに食べている。
自分のからだは、直接自分で見ることはできない。まして自分が動いている姿を見られるはずがない。
この度、自分が動いている姿を目撃して、びっくりするやら可笑しいやら………映像の中の、自分と全く結びつかない老女が限りなく愛おしくなってきて………自分の中に見えない他者が住んでいる!

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